令和6年度第2回試験 基礎科目第1問の過去問解説です。
問1(1) 端子a-b間の電圧
図1に示す回路において、端子a-b間の電圧は、(ア)ボルトである。ただし、電池の内部抵抗は無視するものとする。(5点)
① 10 ② 12 ③ 14 ④ 16 ⑤ 18
出典:令和6年度第2回第1問(1)
解答
③
解説
本問はキルヒホッフの法則を使って解くこともできますが、帆足・ミルマンの定理を使うほうがより楽に解けます。
帆足・ミルマンの定理
帆足・ミルマンの定理では、並列回路における端子間の電圧 Vab を以下の式で求めることができます:
\(\displaystyleV_{ab} = \frac{\sum \frac{E_i}{R_i}}{\sum \frac{1}{R_i}}
\)
ここで:
- Eiは各枝の起電力(電池の電圧)です。
- Riは各枝の抵抗値です。
- \(\Sigma \)は、合計を表します。
一見すると「難しそう!」となりがちですが、オームの法則の考え方で理解しておくと、覚えやすく忘れにくくなります。以下、オームの法則から帆足・ミルマンの定理を見ていきます。
オームの法則の基本
オームの法則では、 V=I×R で電圧を求めることができます。
Vabを求めるためには、Vab間の電流Iと合成抵抗Rが分かれば計算できるはずです。
合成抵抗はともかく、電流Iを求めるのが難しいですよね(そのためにキルヒホッフの法則を使ったりするわけですが)。
帆足・ミルマンの定理では、回路を枝ごとに分解して、枝ごとに\(\displaystyle \frac{ E_i }{ R_i }\)を計算して仮の電流値を求めます。そしてそれを合計して、計算に用います。次から具体的な手順をご紹介します。
各枝の\(\displaystyle \frac{ E_i }{ R_i }\)を求めて、合計を出す
上図のように、各「枝」ごとに分解して、\(\displaystyle \frac{ E_i }{ R_i }\)を計算します。
①では、\(\displaystyle \frac{ 3}{ 18 }=6\)
②では、\(\displaystyle \frac{ 4}{ 12 }=3\)
③では、\(\displaystyle \frac{ 6}{ 9 }=1.5\)
①、②、③から求めた数字を全て合算して合計を出します。
6+3+1.5=10.5
これを V=I×R のIの部分として後ほど使います。
次に、 V=I×R のRに該当する合成抵抗を計算します。
合成抵抗の計算
並列の合成抵抗は、逆数の和の逆数で計算することができます。
もちろんそれでも良いのですが、私は個人的に「和分の積」という技が好きなので、そちらを使った計算をご紹介します。
「和分の積」は、2つずつしか合成抵抗を計算できないというデメリットはありますが、直感的に計算をしやすい(通分の面倒くささが軽減される)という特徴があります。
「和分の積」は、その名の通り、分数にして(これが「分」)、分母に2数の和(これが「和」)、分子に2数の積(かけ算。これが「積」)として計算をするものです。
本問では、まず3Ωと6Ωの合成抵抗を出し、その合成抵抗と4Ωとの合成抵抗を計算しています。
3Ωと6Ωの合成抵抗は、\(\displaystyle \frac{ 3\times6}{ 3+6 }=2\)
次に、今合成計算をした2Ωと、未計算の4Ωとの合成抵抗をだします。
\(\displaystyle \frac{ 2\times4}{ 2+4 }=\frac{ 4}{ 3 }\)
Vabを計算
各枝の各枝の\(\displaystyle \frac{ E_i }{ R_i }\)の合計10.5と、合成抵抗の\(\displaystyle \frac{4}{ 3 }\)を用いてVabを求めます。
\(\displaystyle V=10.5\times\frac{ 3}{ 4 }=14\) [V]
参考資料
該当ページ なし
該当ページ 27
問1(2) 皮相電力
図2に示す回路の皮相電力は、(イ)ボルトアンペアである。(5点)
① 300 ② 450 ③600 ④ 750 ⑤ 900
出典:令和6年度第2回第1問(2)
解答
②
解説
1. 皮相電力の定義
皮相電力(S)は、交流回路における電圧と電流の積で表され、単位はボルトアンペア(VA)です:
\( S = V \times I\)
ここで:
- V は回路の電圧(実効値)です。
- I は回路に流れる電流(実効値)です。
2. 回路の構成
図2では以下の要素が含まれています:
- 電源電圧:V=90 V
- コンデンサのリアクタンス:Xc=90 Ω
- コイルのリアクタンス:XL=18 Ω
- 抵抗:R=30 Ω
これらの要素が並列に接続されています。
3. 全体のインピーダンスの計算
並列回路の全体のインピーダンスを求めるには、各枝のインピーダンスの逆数を合計し、その逆数を取ります。
各枝の電流を計算する準備
- 抵抗枝の電流:
I_R = \frac{V}{R} = \frac{90}{30} = 3 \text{A}
\)
- コイル枝の電流:
I_L = \frac{V}{X_L} = \frac{90}{18} = 5 \text{A}
\)
- コンデンサ枝の電流:
I_C = \frac{V}{X_C} = \frac{90}{90} = 1 \text{A}
\)
4. 回路全体の電流の計算
並列回路では、各枝の電流のベクトル和が全体の電流となります。ただし、リアクタンス(XC,XL)による電流は互いに逆位相で打ち消し合います。
リアクタンス枝の合成電流
コイルとコンデンサの電流は逆位相のため、差を取ります:
\( I_{\text{reactive}} = I_L – I_C = 5 – 1 = 4 \text{A}\)
全体の電流の合成
抵抗枝の電流(実数成分)とリアクタンス枝の電流(虚数成分)の合成を考えます:
\( I_{\text{total}} = \sqrt{I_R^2 + I_{\text{reactive}}^2} = \sqrt{3^2 + 4^2} = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5 \text{A}\)
5. 皮相電力の計算
皮相電力は以下のように計算されます:
\( S = V \times I_{\text{total}} = 90 \times 5 = 450 \text{VA}\)
参考資料
参考資料の該当ページです。
該当ページ なし
該当ページ 不明
問1(3) 誘導起電力
コイルに交流電流が流れると、コイル内には時間的に変化する磁束が生じ、流れる電流を妨げる向きに誘導起電力が生ずる。このときの誘導起電力の大きさは、コイルの自己インダクタンスと(ウ)の積で表される。(5点)
①磁 束 ② 磁束変化率 ③ 電 流 ④ 電流変化率
出典:令和6年度第2回第1問(3)
解答
④
解説
1. 誘導起電力の基本
コイルに交流電流が流れると、時間的に変化する磁束が生じます。この変化する磁束によって、コイル内に誘導起電力が発生します。これは、電磁誘導の法則(ファラデーの電磁誘導の法則)による現象です。
誘導起電力の大きさは、以下の式で表されます:
\(\displaystylee = -L \frac{dI}{dt}
\)
ここで:
- e は誘導起電力(単位:ボルト)
- L はコイルの自己インダクタンス(単位:ヘンリー)
- \(\displaystyle\frac{dI}{dt}\) は電流の時間的変化率(単位:アンペア毎秒)
2. 各要素の意味
電流変化率 \(\displaystyle\frac{dI}{dt}\): 電流が時間に対してどれだけ速く変化するかを示します。電流が急激に変化するほど、誘導起電力も大きくなります。
自己インダクタンス L: コイルが磁束を蓄える能力を表します。自己インダクタンスが大きいほど、磁束の変化に伴う誘導起電力も大きくなります。
3.誘導起電力の大きさに影響する要因
\(\displaystylee = -L \frac{dI}{dt}
\)
から、誘導起電力は自己インダクタンスと電流の時間的変化率の積で決まります。
したがって、問題の答えは 「電流変化率」 です。
まとめ
誘導起電力はコイルの自己インダクタンスと電流の時間的変化率の積で表されます。この現象は、交流回路や電磁誘導における基本的な性質であり、コイルが電流の変化を妨げる方向に作用する重要な仕組みを示しています。
参考資料
参考資料の該当ページです。
該当ページ 16
該当ページ 38
問1(4) 絶縁体と帯電導体
中身がくり抜かれていない絶縁体に対し、正に帯電した導体を近づけたときに絶縁体の表面
において、この導体に近い側に負、遠い側に正の電荷が現れる現象は、(エ)といわれる。(5点)
① 双極子 ② 誘電正接 ③ 電磁誘導 ④ 局所電池 ⑤誘電分極
出典:令和6年度第2回第1問(4)
解答
⑤
解説
1. 誘電分極とは
絶縁体(誘電体)に正に帯電した導体を近づけると、絶縁体内の電荷がわずかに移動し、表面に電荷が分極する現象が起こります。この現象を 誘電分極 と呼びます。
2. 誘電分極の仕組み
絶縁体は自由電子が存在しないため、電荷が直接移動することはありません。しかし、絶縁体内部の原子や分子は以下のように反応します:
- 電場がかかると、原子や分子の内部の正電荷(原子核)と負電荷(電子雲)がわずかにずれます。
- その結果、電場の方向に応じて、近い側に負電荷、遠い側に正電荷が現れます。
この現象が 誘電分極 です。
3. 用語の確認
他の選択肢と比較して、「誘電分極」が適切である理由を以下に示します:
- ① 双極子: 双極子とは、正電荷と負電荷が分かれた構造そのものを指しますが、分極の現象を説明する言葉としては不適切です。
- ② 誘電正接: 誘電正接は、誘電体の損失角(エネルギー損失の度合い)を表す指標で、分極現象とは関係ありません。
- ③ 電磁誘導: 電磁誘導は、磁場の変化によって電流や起電力が生じる現象であり、この問題とは無関係です。
- ④ 局所電池: 局所電池は、電池の化学的な局所反応による電圧の劣化を指す言葉です。
- ⑤ 誘電分極: 誘電体内部の電荷がずれることで生じる分極現象を正確に表しています。
4. 数式による説明(補足)
誘電体内の分極強度 PPP は、外部電場 EEE に比例します:
\( P = \varepsilon_0 \chi_e E\)
ここで:
- P は分極強度(単位:クーロン/平方メートル)
- ε0 は真空の誘電率
- Xe は誘電体の電気感受率
- E は外部電場(単位:ボルト/メートル)
この関係式により、誘電体内の電荷の分布が電場に応じて変化することが理解できます。
まとめ
誘電分極は、絶縁体内の電荷が電場の影響で移動し、表面に電荷が現れる現象を指します。この現象は、誘電体が電場に応答する特性を示し、コンデンサや高周波回路などの設計において重要な役割を果たします。
参考資料
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※本問は、試験直前期に配布した「基礎 穴埋め暗記セレクション2024受験版」で的中しました。
該当ページ 14
該当ページ 不明
第1問の解説記事は以上です。他の大問は別記事でご紹介します。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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