工事担任者 過去問解説 令和6年第2回 技術(総合通信)第4問

令和6年度第2回試験 技術科目第4問の過去問解説です。 

問4(1) 光アクセスネットワークの設備構成

光アクセスネットワークの設備構成について述べた次の二つの記述は、(ア) 。(2点)


A 電気通信事業者のビルから配線された光ファイバの1心を、分岐点において光受動素子を用いて分岐し、個々のユーザの引込み区間にドロップ光ファイバケーブルを使用して配線する構成を採る方式は、ADS方式といわれる。


B 電気通信事業者のビルから集合住宅のMDF室などに設置された回線終端装置までの区間には光ファイバケーブルを使用し、MDF室などに設置されたVDSL集合装置から各戸までの区間には既設の電話用の配線を利用する形態のものがある。


① Aのみ正しい   ② Bのみ正しい  ③ AもBも正しい  ④ AもBも正しくない

出典:令和6年度第2回第4問(1)

解答

解説

問題の趣旨

この問題は、光アクセスネットワークの設備構成に関する基本的な理解を問うものです。特に、光アクセス方式や既存設備を活用した構成についての知識が求められます。

Aの記述:誤り

  • 記述内容:電気通信事業者のビルから配線された光ファイバの1心を分岐点で光受動素子を用いて分岐し、個々のユーザにドロップ光ファイバケーブルを配線する構成を「ADS方式」といいます。
  • 誤りの理由:
    • 記述にある方式は PON (Passive Optical Network) の説明に該当します。
  • 「電気通信事業者のビルから配線された光ファイバの1心を、分岐点において光受動素子を用いて分岐し、個々のユーザの引込み区間にドロップ光ファイバケーブルを使用して配線す る構成を採る方式は、PONといわれる。」となっていれば正しいと言えます。
  • ADSでは、分岐点において「多重化装置」を用いています。ADS方式では、多重化装置から加入者の宅内の装置まで既存のメタルケーブルを利用することができます。一方で、多重化装置に給電が必要である点や多重化装置の設置場所に制約があるなどデメリットがあり、現実にはあまり使用されてない方式です。

Bの記述:正しい

  • 記述内容:電気通信事業者のビルから集合住宅のMDF室まで光ファイバケーブルを使用し、MDF室に設置されたVDSL集合装置から各戸までは既設の電話用配線を利用する形態のものがあります。
  • 正しい理由:
    • この記述は、光配線方式(FTTB: Fiber to the Building) による構成を説明しています。
    • FTTB では、建物内に設置されたVDSL集合装置を用いて、光ファイバから既存の電話線を介して各戸まで通信を行います。

参考資料

まなびや

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※本問は、試験直前期に配布した「技術 穴埋め暗記セレクション2024受験版」で予想的中しました(記述Aの内容が的中)。

総合通信要点解説(自著)

該当ページ 161

リックテレコム社

該当ページ 268

問4(2) ICMPv6メッセージ

IPv6ネットワークでは、パケットを転送処理しているルータにおいてIPv6ヘッダのホップリミットの値を1減らした結果、ホップリミットの値が0になった場合には、そのパケッ トは当該ルータにおいて破棄される。このとき、そのルータから送信元に送られるICMPv6メッセージは(イ)メッセージといわれる。

①パラメータ問題  ② 時間超過  ③ パケット過大  ④ リナンバ指示  ⑤ 終点到達不能

出典:令和6年度第2回第4問(2)

解答

解説

問題の趣旨

この問題は、IPv6ネットワークにおけるパケット転送時のホップリミット(IPv4でのTTLに相当する値)の減少と、その結果発生するICMPv6メッセージについて問うものです。

ホップリミットとは?

  • ホップリミットは、パケットがネットワーク上を通過できる最大ルータ数を制限するフィールドで、IPv4での「TTL(Time to Live)」に相当します。
  • 各ルータを通過するごとにホップリミットの値が1ずつ減少します。
  • 値が0になると、ルータはパケットを破棄し、送信元に通知を行います。

ICMPv6メッセージの種類

IPv6ネットワークでは、異常やエラーが発生した場合、ICMPv6(Internet Control Message Protocol for IPv6)メッセージが送信されます。

主なICMPv6エラーメッセージ
  1. パラメータ問題(Parameter Problem)
    • ヘッダ内のフィールドやオプションに誤りがあった場合に送信される。
  2. 時間超過(Time Exceeded)
    • パケットのホップリミットが0になり、転送不能になった場合に送信される。
  3. パケット過大(Packet Too Big)
    • パケットが転送可能なMTU(Maximum Transmission Unit)を超える場合に送信される。
  4. リナンバ指示(Reassembly Time Exceeded)
    • パケットの再構成が失敗した場合に送信される。
  5. 終点到達不能(Destination Unreachable)
    • 宛先への到達が不可能な場合に送信される。

まとめ

  • ホップリミットが0になった場合には、時間超過(Time Exceeded) メッセージが送信されます。
    • このエラーメッセージは、パケットがネットワーク上で許容ホップ数を超えたため、破棄されたことを送信元に通知します。

参考資料

まなびや

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総合通信要点解説(自著)

該当ページ なし

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該当ページ 276

問4(3) IP電話 損失箇所を補完する技術

IP電話において、IP網の経路上で発生するパケット損失による音声品質の劣化を低減させるため、受信側のVoIPゲートウェイなどにおいて、パケット損失が発生した箇所の前後の音声データから損失箇所を補間する技術は、一般に、(ウ)といわれる。 (2点)

① エコーキャンセラ  ② AGC  ③ ARQ ④ キューイング  ⑤ PLC

出典:令和6年度第2回第4問(3)

解答

解説

問題の趣旨

この問題は、IP電話(VoIP)において、ネットワーク上で発生するパケット損失に対応する技術に関する知識を問うものです。

PLCとは?

  • Packet Loss Concealment(PLC) は、IP電話やVoIPゲートウェイなどで、パケット損失によって発生する音声の途切れを補正するための技術です。
  • 音声品質を保つために、損失したパケットを補間し、ユーザが感じる音声の劣化を最小限に抑えます。

PLCの動作原理

  1. 損失検知:
    • 音声データが連続するストリームで送信されることを前提に、受信側で欠けたパケットを検知します。
  2. 補間処理:
    • 前後のパケットの音声データを基に、損失した部分を推測・補間します。
    • 具体的には、線形補間音声モデルを利用して補間します。
  3. 滑らかな再生:
    • 損失したパケットがある場合でも、補間によって再生が滑らかに続けられるようにします。

他の選択肢との比較

  • ① エコーキャンセラ
    • エコーを除去する技術。損失したパケットの補間とは関係ありません。
  • ② AGC(Automatic Gain Control)
    • 自動音量調整機能。音声の音量レベルを一定に保つ技術で、パケット損失の補間には関与しません。
  • ③ ARQ(Automatic Repeat reQuest)
    • データ通信のエラー訂正手法。パケット損失が発生した際に再送を要求しますが、リアルタイム性が重要なIP電話には適していません。
  • ④ キューイング(Queuing)
    • パケットを順番に処理する技術。損失箇所の補間とは直接関係がありません。
  • ⑤ PLC
    • 正解。パケット損失の箇所を補間する技術であり、IP電話の音声品質を維持するために用いられます。

まとめ

PLC(Packet Loss Concealment) は、IP電話の音声品質劣化を低減するためのパケット損失補間技術として適切な回答です。

参考資料

まなびや

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総合通信要点解説(自著)

該当ページ なし

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該当ページ 不明

問4(4) クラウドコンピューティングのサービスモデル

クラウドコンピューティングのサービスモデルのうち、クラウド事業者がサーバなどのハードウェア基盤のみをユーザに提供するサービスは、一般に、(エ)といわれ、ユーザはOS、ミドルウェア、アプリケーションなどをインストールして利用する。 (2点)

① オンプレミス ② ハウジング ③ PaaS ④ SaaS ⑤ IaaS

出典:令和6年度第2回第4問(4)

解答

解説

クラウドコンピューティングのサービスモデルには、以下の3つの主要なモデルがあります。

  1. IaaS (Infrastructure as a Service)
    • 概要: クラウド事業者がサーバ、ストレージ、ネットワークなどのハードウェア基盤を提供するサービスです。
    • 利用者の役割: ユーザーは、提供されたハードウェア上に自分でOS、ミドルウェア、アプリケーションをインストールして利用します。
    • : Amazon EC2、Google Compute Engine、Microsoft Azure Virtual Machines。
  2. PaaS (Platform as a Service)
    • 概要: クラウド事業者がOSやミドルウェアなどを含む開発プラットフォームを提供します。
    • 利用者の役割: ユーザーはアプリケーションの開発や実行に集中できる環境を利用します。
    • : Google App Engine、Microsoft Azure App Service。
  3. SaaS (Software as a Service)
    • 概要: クラウド事業者がアプリケーションソフトウェアを提供します。ユーザーはインターネット経由でアプリケーションを利用するだけです。
    • 利用者の役割: ソフトウェアの操作のみ。
    • : Google Workspace、Microsoft 365。

選択肢の解説

  1. オンプレミス: サーバやネットワークを自社で管理する方式であり、クラウドサービスではありません。
  2. ハウジング: ユーザーが自社所有のサーバをデータセンターに設置して運用するサービスで、クラウドとは異なります。
  3. PaaS: プラットフォームの提供に関するサービスであり、ハードウェアのみの提供ではありません。
  4. SaaS: アプリケーションソフトウェアの提供であり、利用者がOSやミドルウェアをインストールする必要はありません。
  5. IaaS: 正解。クラウド事業者がハードウェア基盤を提供し、利用者がOSやミドルウェアなどを自由に構築します。

まとめ

この問題では、「ハードウェア基盤のみをユーザーに提供する」という条件から、⑤ IaaS が正しい選択肢となります。

参考資料

まなびや

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総合通信要点解説(自著)

該当ページ なし

リックテレコム社

該当ページ 不明

問4(5) 広域イーサネット

広域イーサネットなどについて述べた次の二つの記述は、(オ)。 (2点)

A  IP-VPNがレイヤ3の機能をデータ転送の仕組みとして使用するのに対して、広域イーサネットはレイヤ2の機能をデータ転送の仕組みとして使用する。

B  MPLS網を構成する機器の一つであるラベルスイッチルータ(LSR)は、MPLSラベルを参照してMPLSフレームを中継する。

① Aのみ正しい ② Bのみ正しい ③ AもBも正しい ④ AもBも正しくない

出典:令和6年度第2回第4問(5)

解答

解説

この問題の正解は ③ AもBも正しい です。以下にそれぞれの記述について詳細に解説します。

記述 A の検証

  • 内容:
    • IP-VPN はレイヤ3 (ネットワーク層) を使用してデータを転送します。IPアドレスを使用して通信を行い、インターネットプロトコル (IP) に基づく仮想プライベートネットワークを構築します。
    • 一方で、広域イーサネット はレイヤ2 (データリンク層) を使用してデータを転送します。イーサネットフレームを直接使用して通信を行うため、LANの延長として広域で利用できます。

記述 B の検証

  • 内容:
    • MPLS (Multiprotocol Label Switching) は、高速なデータ転送を実現するために、パケットに付加されたラベルを参照して通信経路を決定します。
    • LSR (Label Switch Router) は、MPLSネットワーク内でラベルを参照し、適切な経路にデータを転送する役割を持つ機器です。これにより、ルーティングプロセスを効率化します。

補足

広域イーサネットの特徴
  • LANのような操作感でWANを構築可能。
  • レイヤ2通信を採用しており、イーサネットフレームを使用。
  • マルチポイント間通信に優れている。
MPLSの特徴
  • ルータがパケットごとに宛先IPアドレスを確認することなく、高速転送を実現。
  • MPLSラベルを使用して経路を決定。
  • 大規模ネットワークで効率的なデータ転送を可能にする。

まとめ

正解は③ AもBも正しい です。どちらの記述も広域イーサネットやMPLSの技術仕様に基づいて正確に説明されています。

参考資料

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参考資料の該当ページです。

総合通信要点解説(自著)

該当ページ 156,159

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該当ページ 265

技術第4問の解説は以上です。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。